行ったのはどのような実験?

先日も書いたとおり,クロマチンがオープンになっている部位は転写因子が作用しやすくなっており,発現が促進されていると考えられている.
クロマチンはオープンになる/ならないの他にも様々な化学的修飾を受けており,これらもまた発現制御に関わりをもつと考えられているのだが,このアノテーショントラックで見れるのは,基本的にどの程度オープンになっているか,というもの.
データは以下の三種に分けられている.以下にそれぞれの概要を述べる(それぞれ実験手法の要約ページ(英語)へのリンクを貼ってある.翻訳には正確を期したが間違いが含まれているかも知れないので,怪しいと思ったらリンク先を調べることを勧める)

DNA 分解酵素による DNA の分解されやすさのデータ.
クロマチン構造が形成されている部位は DNase による分解を受けづらく,逆にオープンな部分は簡単に分解されてしまう.
そのように分解したものをマイクロアレイにかければ,分解された部位がわかる,というもの.

DNase-seqにおいて直接わかるのは「DNaseによって分解されなかった部位」なのだが,こちらはオープンになっている部位をそのまま分離する方法.
まずクロマチン構造をホルムアルデヒドで架橋したのち,音波で DNA を断片化する.その後フェノール・クロロホルム抽出を行うと,クロマチン構造がオープンになっている部位の DNA だけが抽出できる.
リファレンスとしてホルムアルデヒドで架橋しないものも作り,両方に別々のラベリングを施した上で同じマイクロアレイにかける,というやり方.

日本語で言うとクロマチン免疫沈降.有名な方法なので日本語で調べても結構文献が出てくる.
こちらは転写因子の反応特異性を利用している.転写因子がクロマチンのオープンになっている部位に結合させ,免疫沈降反応によって分離する(場合によってはビーズをつけることでより分離しやすくする).
トラックの設定画面だと "ChIP-seq c-Myc" といったように,転写因子の名前を添えて書かれている.これが用いた転写因子の種類.



上二つは良くも悪くも一般性の強い実験で,というのはこれは単にとりあえず「クロマチンがオープンになっている」部位のデータ.つまり,その部位にはどう言った転写因子が作用するのか,そこに転写因子が結合したときに何が起きるのか(その部位はプロモーターなのか,エンハンサーなのか,サイレンサーなのか?),といったことについてはわからない.
逆に言うとこの手法のメリットは転写因子について解っていなくとも,転写制御を受けている可能性がある部位を知ることができることにある.

クロマチン免疫沈降は転写因子の反応特異性を利用したものなので,転写因子に依存するデータを知ることができる.

以上のような実験手法で取られたデータが,ゲノムの塩基配列に対するアノテーションとして見ることができる.